「クリスマス・オラトリオの終幕劇」

の話



 東方の博士たち(三人より多い人数と思われる)の来訪により、旧約聖書でかねてから預言されてはいた「ユダヤ人たちの中の王」が、ついに誕生したと聞かされた時、ヘロデ王は当然ながら新しい王が誕生した喜びよりも、王位を死守する必要性を感じたに違いない。
 「私自身もそこへ行って、ぜひ拝みたいので、行って幼子のことを詳しく調べて、わかったら知らせてもらいたい。」と、博士たちに言葉巧みに言い寄り、所在と身元が明らかになったところで、その生まれて間もない「ユダヤ人の王」を、赤ん坊の時に密かに抹殺してしまおうとたくらんでいたのであった。

 そうとは知らず博士たちは、現在ではヨルダン川西岸地区(いわゆるパレスチナ自治区)に編入されている、王都エルサレムよりほど近い田舎町ベツレヘムへと向かい、生まれてしばらく経った幼いイエス・キリストに謁見、感動の対面を果たすが、「夢」に告げられ、ヘロデ王に報告するとした約束を反故にし、そのまま帰国してしまったのである。
 それを聞いたヘロデ王は激高し、ベツレヘムとその近辺にいる2歳以下の男の子を、なんと一人残らず虐殺することを命じたのであった。
 しかし幼子イエスの父ヨハネと母マリヤとは、天使に告げられ事前に隣国(と言っても、今ほど近いとは感じられないと思う)エジプトへと逃避していた。それは旧約聖書の預言が成就されるための行動でもあったのだが。

 クリスチャンでなくても知っている、有名な「受胎告知」から始まる一連の「クリスマス・オラトリオ」は、この「聖家族の逃避」で幕を閉じる。クリスマス前の4週を「待降節」と言い、クリスマス後3週目の「主の洗礼」の主日(日曜)までを「降誕節」と言う。 クリスマスの次の主日(日曜)を「聖家族の祝日」と言い、なぜエジプトに逃避する必要があったのかを考える時となっている。



「エジプト逃避途上の休息」ルカス・クラーナハ 1504